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みえない
価値を
カタチにする

デザインとは”形”をつくることだけではありません。視点を変え、情報を再構築することで、まだみえていない価値を見つけ出し、新しいカタチをつくること。
それが、私たちの考えるクリエイティブ・デザイン=ブランドづくりです。

JOURNAL

八王子のレストラン「オコジュ」のこと
八王子のレストラン「オコジュ」のこと category : column
update. 2020.09.14

バケットにトマトクリームソースを絡めながら、僕は窓の外に広がる緑を見回していた。僕は店内で活き活きと働く若者達を目で追っていた。そしてとても不思議な気分になった。「なぜ今までこの店に来させられていなかったのだろう」と。   [caption id="attachment_2235" align="alignnone" width="600"] 優柔不断を存分に発揮しながら今回はパスタとハンバーグを注文する。[/caption]   シンクメディアのフライフィッシング担当、次山です。 先日、八王子にある「オコジュ」というカジュアルなレストランに行ってきました。そのきっかけとなったのは行きつけのカフェでの会話でした。   そのカフェで、江ノ島水族館や品川水族館に代表される「水族館デートの是非」、あるいは「フライフィッシャーとしての水族館での在り方」について議論している最中、八王子にある熱帯魚店へと話題が展開されました。そして、その熱帯魚店が提案している世界観が素晴らしいこと、水族館に行かずとも、その熱帯魚店で魚を眺めて、併設されているレストランで過ごす時間は立派なデートコースになりうると、そのカフェのマダムが言うのです。八王子でドライブデートをするなら「お店の名前は忘れたけど・・その熱帯魚店には必ず寄るべきだ」と力強く。   それだけ言うならばリストに入れておこうと僕はロングブラックを口に運びながら、スマートフォンのグーグルマップをコントロールします。「八王子」「熱帯魚」というキーワードを手がかりに探っていくと「吉田観賞魚(よしだかんしょうぎょ)」と「Au coju(オコジュ)」という店が表示されました。   あっ!僕のツルツルの脳味噌の中で珍しく何かがカチッと音を立てました。あるいは興奮のあまりコーヒーカップをソーサーに置いた際カチッと音が鳴ってしまったのかも知れません。とにかく記憶の遠くに漂っていたユニークな店名と、目の前でありありと語られる世界が結びついた瞬間でした。   「オコジュ・・」それはシンクメディアの代表である森大佑が兼ねてから口にしている音で、僕は会議でその音を聞くたびに、漢字で表すのか、アルファベットで表すのか、どこか異国の言葉なのか、などと疑問に思っていました。または森大佑の滑舌があまりに悪く、別の言葉が崩れてしまっているのだろうか、そうだとするとかなり気の毒だな、と考えていました。いずれにしてもモヤモヤととても耳に残る音で、だからこそカフェでの些細なやり取りの中でも僕が拾い上げることができたのでしょう。   オコジュは八王子に本社を置く「吉田観賞魚販売株式会社」が運営するブラッスリー(カジュアルなレストラン)です。日本ではあまり区別する必要もないのでここでは「レストラン」と統一して書いていきます。駐車場は70台まで収容できる大きさで、その広大な敷地内には、吉田観賞魚の店舗、アンティーク家具のギャラリー、ガーデニングに関するギャラリーと相談窓口、生産者の顔が見えるマルシェ、そしてオコジュがあります。   [caption id="attachment_2239" align="alignnone" width="600"] マルシェに続く通路。「回廊」と言った方がぴったりくる。[/caption]   駐車する際、次々と店舗から出てくる人々が、皆、ビニール袋に入った熱帯魚を抱えているのを見て、ここでは自宅に水槽を持っていることが当たり前なのかと驚きました。   [caption id="attachment_2238" align="alignnone" width="600"] オコジュでは素敵なアンティーク家具に囲まれながら食事ができる。[/caption]   オコジュに入り、手をアルコール消毒をするとすぐにショートヘアの女性がテーブルに案内し、メニューの詳細と料金は先払いであることを説明してくれました。「Yoshida Fish Farms」と書かれたネイビーのTシャツは少し色褪せていてそのコットンの毛羽立ちと風合いがカッコいい。彼女の身のこなしには無駄が無く、よく訓練されたスムーズな動きです。それでいて寄り道を嫌うような機械的な冷たさはなく、笑顔は血が通った明るさと誠実さに溢れています。   テーブルにサラダとバケット、注文したハンバーグとパスタが運ばれてくると、僕は間髪を入れずにボナペティと呟き、うっかりナイフとフォークを振り下ろしてしまいました。しかし入刀の寸前にこの記事をどうしても書く必要があると思い立ち、かろうじて写真を何枚か撮ることに成功しました。   [caption id="attachment_2234" align="alignnone" width="600"] 池の鯉。建物内部の水槽では物凄い数の熱帯魚が泳いでいる。[/caption]   用いる比喩が見つからないほどの彩を放つ魚たち、揺れる植物に囲まれる生活、畑との対話から選ばれた野菜たち、ゆったりとした確保されたソーシャルディスタンス(この点は今だから、というのではなく、これまでも贅沢な空間であったに違いない)、数えきれぬ試練を生き抜いてきた家具たち。   [caption id="attachment_2237" align="alignnone" width="600"] グリーンギャラリーガーデンズの一角。自宅に植物が無いことはもうほとんど罪だ。[/caption]   ナプキンで口元を拭います。テーブルから窓の外を眺めていると、東フランス、コンテ地方にあるブザンソンの旅を思い起こさずにはいられません。あの時、僕のフライロッドはとうとう火を吹くことなく、目当てのゼブラトラウトは一匹も釣れませんでした。しかし、そこで過ごした時間はドゥ川のように太く、そしてゆっくりと流れていて、とても満ち足りたものでした。まさに当時の豊かな空気を回想させるのです。   グーグルは僕のことを何でも知っているはずなのに「なぜ今までこの店に来させられていなかったのだろう」と考えました。それともフランスよりオコジュが上流部なのかもしれません。どういうことかというと、ここがスタート地点で「オコジュに行ったから、この後、僕はフランスの鱒を釣らされる」ということです。その予兆として僕が訪問するあらゆるサイトにフランス製ヴィンテージバンブーロッドの広告が現れているではありませんか!   Yoshida Fish Farmsは観賞魚を売っているのではありません。Green Gallery Gardensも、Gardens Marchéも、Au Cojuも商品を扱っているのではありません。 生きることの喜びとは何かを僕に問いかけ、人々の生活を水々しくする場所なのでした。   追伸、 フランスからもうすぐリールが届きます。

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